タイトル:〈叱る依存〉がとまらない
著者:村中直人
刊行:2022/2/4
選定のきっかけ
Twitterでたまたま見かけたのがきっかけ。
自分の怒りっぽい性格を自覚しており、また、最近では特に次女の出産後に長女に対してきつく叱ってしまうことに悩んでいたため、この状況を解決するためのヒントにしたいと思った。
本の内容など
「叱る」とはなにか
- 「叱る」ことによる人の学びや成長を促す効果は大してない。
それどころか、それに伴う弊害が多い。 - 「叱る」=相手を変えようとする手段
- 権力(状況を定義する権利を持つ人)がある人が、ない人に対して行う
- 「叱る」の定義
言葉を用いてネガティブな感情体験(恐怖、不安、苦痛、悲しみなど)を与えることで、相手の行動や認識の変化を起こし、思うようにコントロールしようとする行為。
「叱る」の内側のメカニズム
- 扁桃体(不安や恐怖を感じる脳の部位)が過度に活性化するようなストレス状況は、前頭前野(知的な活動に重要だと考えられている脳の部位)の活動を大きく低下させる。
- 扁桃体を中心とするネガティブ感情の回路は防御システム。危機を察知して危険な状況を脱脂、生存率を上げるための方法を用いて最大にするような反応を引き出す。→「闘争・逃走反応」
- ドーパミンニューロンを中心とする回路=報酬系回路
報酬が与えられたとき、報酬が期待できるときに働く。
この報酬系回路には前頭前野の一部が含まれている。 - 人にとって報酬(人の欲求を引き起こす報酬)になりうるもの
- 「苦痛の回避」や「処罰感情の充足」も人間にとっては「報酬」となる
「叱る」に依存する
- 処罰感情の充足→勧善懲悪が好まれる
- 動物は、行動の直後に報酬が与えられると、その後のその行動の頻度が高くなる
- 「慣れ」が悪循環を作る
- 叱られる側は、弱〜中程度の苦痛には慣れる→叱る側が期待するような反応(報酬)を得られなくなる→より強く叱る
- 強度の苦痛に、動物は慣れることができない(生命の危機だから)→その後、弱〜中程度の苦痛にも敏感になり、心身が疲弊する可能性
虐待の定義の拡大
- "マルトリートメント"という新語
叱ることがやめられなくなっている人は、「私は努力している。悪いのはこの人だ」という発想に陥っている。
それは「叱る側」が「状況の定義権」を持っているから生じる状況。何が正義かを決められる立場だから、そういった発想になる。
叱る依存から脱却するために
- 叱ると厳しい指導はイコールではない。叱らなくても厳しい指導はできる。
- さらに、苦しみが成長につながるのは「冒険モード」で主体的、自律的に苦しみを乗り越えるときであって、防御反応のときではない。
- 処罰感情に向き合う方法を考える。
- 処罰感情は性欲に似ている。これをどのように充足させるかについての議論はまだ十分でない。
- 叱る自分を叱ってはいけない。「叱る」を手放すことが重要。
- 自分が「権力者」であることを自覚する。
- あくまで自分が描く理想の世界について話しているということを認識する。
- 自分が主人公で話しているのと同じ用に、相手側が主人公になるということも理解し、お互いの望む状況を大切にし合う。
- 「前さばき」「後さばき」の「前さばき」を意識する。
- 「叱る」はたいてい、叱る側の予測や期待から外れた場合に起きる
→予測力をつける。また、相手に「予告」(何をしてはいけないのかを伝える)する。 - 「未学習(知らない、できない)」と「誤学習(しない)」をきちんと区別する。
- 過去に一度できたからといって「できる」判定しない。発展途上の能力やスキルはアンバランスで一進一退。
- 「叱る」はたいてい、叱る側の予測や期待から外れた場合に起きる
冒険モードになる鍵は「自己決定」
- 周囲ができることは、本人の意図や意欲を邪魔しないことだけ。
ニューロダイバーシティについて考える
- 性格や感じ方の違い、というレベルではなく、脳や神経の働き方というレベルで異なっているかもしれないと考える。
感想
叱るということが自分にもたらす報酬と、それが実際にもたらす意味のなさに非常に納得できた。
処罰感情についての様々な記述は非常に興味深く、現代版コロッセオの話のくだりにはゾッともした。
また、自分がある環境においては「権力者」であるという状況にも恐怖を覚えた。
本筋ではないが、「冒険モード」についてはもっと勉強したいとも思った。
この本を読みながら、すでにだいぶ「叱るを手放す」ことができつつあり、自分に必要な本に出会えたなと思うとともに、もっと早く読みたかったとも思った。(できれば出産前に。産後クライシスとか読んでる場合じゃなかった。が、残念ながらその時はまだこの本は出版されていない…)
著書の中で触れられていた反体罰宣言 日本体育大学が超本気で取り組んだ命の授業も読んでみたいのだが、レビューを見るだけで胸が苦しくなってしまったので、これを読めるのはまだだいぶ先かもしれない。
|