オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

タイトル:オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

著者:オードリー・タン 

刊行:2020/11/29

 

 

選定のきっかけ

2021年に日本にデジタル庁が発足したが、初代大臣の平井卓也氏は接待問題等をうけて約1年で退任。目立った功績もなく、相変わらず「日本のおじいちゃんたちの政治ごっこ」だとがっかりした記憶がある。

 

一方の著者は、2016年10月に台湾の蔡英文政権において35歳で行政院に入閣し無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)を務めた後、2022年8月27日に新たに設置された数位発展部の初代部長に就任したオードリータン氏。

日本では30代の若手の政治家がリーダーシップを取る機会はないだろう。なぜ台湾ではそれが実現したのか?オードリータン氏はどのような人物なのか?とかねてよりとても興味があった。

 

AIの未来…的な主題の部分はさておき、オードリータン氏自体とその思想について触れてみたいというのが一番の動機である。

 

 

本の内容など

 

  • デジタルの民主主義は雞婆(ジーバー)の上に成り立っている
    • 雞婆=雛鳥の母のように、おせっかいな人のイメージ。例えば道が崩壊していて通行不可なときに、自分が普段使う道でなくても台湾人は行政に連絡して対策を取らせる。自分ごと化している。

 

  • マイノリティのために作ったものが、思いがけず他の人の役に立つことがある。
    • 車椅子トイレが子連れの家族にとって便利だと、実装されたあとでわかることがある。
    • 誰も置き去りにしないことが本当のインクルージョン

 

  • AIは人間を選別するために使われるのではなく、ソーシャルイノベーションや人間社会に役立つために使われるべきである。
    • Artificial Intelligenceではなく、assistive intelligence(補助的知能)

 

  • サイエンス+テクノロジー+アート
    • 世界を構造化して捉えるのにサイエンスやテクノロジーのような直線的な考え方は必要
    • しかし、それだけでは既存のものを捉えるだけ。ブレイクスルーしない。
    • 既存の枠組みを取り払い、新しい視点を養うためにアートの視点(物事を枠の外で捉える)や文学的な視点が必要になる。

 

  • AIは人間の問題を助ける
    • その前提となる必須の思考法:プログラミング思考、アート思考、デザイン思考
    • さらにその前提となるもの:自発性、相互理解、共好(ゴンハオ・お互いに交流し共通の価値を探し出すこと。自分には自分の、相手には相手の価値観がある。)

 

 

感想

オードリータン氏が自身の半生や経歴、仕事の経験などを語りながら、AIやデジタルなどの技術は今後どのように活かされるべきかに言及している。

 

元々はAIの今後の展望についての考察を期待して読み始めたが、中学を中退してしまう(がその後15歳で起業する)など意外な経験も語られており、単純に伝記として楽しめる。

また、台湾や中国ならではの考え方や言葉も知ることができ、文化の差異についても気付きがあり興味深かった。

 

オードリータン氏についてどれほど理解が深められたか定かではないが、想像していたゴリゴリマッチョなデータサイエンティスト(?)のような佇まいではなく、非常にリベラルでフラット、バランス感覚に優れているまさに現代的な聡明さを持ち合わせている方なのだろうなと察せられた。

 

一章一章くまなく読んでいくというよりも、気になる見出しのところをぱらぱらと読んでみるスタイルが良さそう。