タイトル:沈黙の勇者たち: ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い
著者:岡 典子
刊行:2023/5/25
選定のきっかけ
COTEN RADIOで紹介されたのをきっかけにこの本を手に取った。おそらくヒトラーの回ではなく、差別(人権)の歴史とかいう類のテーマだったと記憶している。その中で紹介されている事例の多くがこの本から出てきていると知り、興味深く思った。
本の内容など
ホロコースト、ユダヤ人の迫害、ヒトラーとナチスドイツというと、どうしても焦点が当たるのがやはりアウシュヴィッツを代表とする強制収容所や絶滅収容所の存在やその殲滅行為だ。
多くの人の関心はそこに向いており、自分自身長らくヒトラーとナチスドイツに興味があると思っていた。
ただ、最近思うのは、自分は決してヒトラーという男やナチスドイツという組織に興味があるわけではなさそうだということだ。
それよりも、こうした迫害がどういったメカニズムで生じるのかだったり、宗教の対立だったり、人々の倫理観的な部分に興味があるようだ。
そのような自分の関心の中で、絶滅収容所の悲惨さを描くものではなく、収容所送りを逃れて潜伏生活を送った人々の過酷な日々や、それを助けるドイツ人に焦点を当てている本書は非常に興味深かった。
感想
つい最近読んだ本の中で「人間は生来定住に向いていない」という内容を読んだばかりだが、潜伏生活を送るユダヤ人たちは1日〜長くても3ヶ月で住処を移すほかなかった。定住を否定できる自分の生活の豊かさを思ってため息が出る。
何名かのユダヤ人の潜伏生活を追っていく様子は、さながら短編ドキュメンタリーのオムニバスのようだった。
ページを進めるたびに胸が苦しくなる思いだった。
また、彼らに手を貸したドイツ人たちへの思いもまた複雑だ。
現代から振り返ればかれらは勇者で英雄だ。しかし、当時でいえば、法令を犯した犯罪者でもある。
自分に置き換えてみることがこれほど難しい事例はなかなかないのだが、敢えて自分に置き換えるチャレンジをしてみるが、悲しいながら自分はきっとこういったリスクを犯すタイプではないだろう。
ただ、その中でも、自分が是とする信念を貫きたいし、時代の価値観に囚われるのではなく自らの倫理観を大切にした行動を取りたいと思うのだった。